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目覚めたる土くろきかなもぐら出づ

老境に入るや春風めにしむる

春の陽のどっと差し入る雨後の窓

ストーブを背に念入りに爪を切る

故郷(ふるさと)に入学祝いの童話購ふ

バレンタイン六十路の夫にチョコ二つ 本当は三個

自堕落は母ゆずりかや春の風

卒業しリクルート誌の反古となる

忙しさのふと立ち止まる春の雨

あれだけのものを言いたや冬雀

寒月の銀ふんだんに畦の道

さまざまの鬼を抱いて春立ちぬ

ベゴニヤに座をゆづりたり冬日向 河二月号