ピックの手紙(旧題:ローラースケートをはいたうさぎ)
「おじいさーん、サンタのおじいさーん、ちょっとまってくださーい」
ねえ、みなさん、いっしょうけんめいサンタのおじいさんをよんでいるのはだれだと思いますか。そして、ここはどこだと思いますか。
ホラホラ光ってる、光ってる。明るい家の中からとび出したトナカイくんの赤いハナが、とてもよく光って見えます。
そう、ここはサンタのおじいさんの家です。もうすぐクリスマスなので、サンタのおじいさんは、たった今、プレゼントのじゅんびに元気なクロハナのトナカイをつれて出かけたばかり。いや、まだそりのすずが聞こえていますよ。赤ハナくんは、大いそぎでおいかけて行きました。
家の中では、るすばんのトナカイ達がみんな集まって来ました。
「なんだ、赤ハナのヤツ、なんであわてておいかけて行ったんだ?」
「あら、デカハナさん、ヤツだなんて言うとサンタのおじいさんにしかられるわよ。きっと赤ハナさん、あまったれてついて行ったんじゃないの?」
「まさか、ピンクノーズのきみじゃあるまいし。なあ、ホソクビくん、赤ハナのようす、まじめだったよな」
「そういえば赤ハナのつのに、何か手紙のようなものがぶらさがっていたの気がつかなかったかい、シロッパナくん」
「うん、そういえば……」
いろんなトナカイたちが集まって話していますよ。はなの大きなデカハナくん、一ばん小さいピンクのハナのピンキーちゃん、白いハナのシロッパナくん、ひょろひょろとやせたホソクビさん、まだまだいますよ。十三とうのトナカイたちをぜんぶしょうかいしてあげたいけど、ホラ、さっきの赤ハナくんが帰って来ました。
「や、帰って来た、帰って来た」
「一しょに行ったのじゃなかったのかい」
「どうしてあんなにあわてておいかけて行ったんだい」
「ごめんよ、みんな、びっくりさせて。ひるま、サンタのおじいさんに手紙が来ていたのに、わたすのをわすれていたんだよ。あしたおひっこしをするという手紙だったので、いそいで見せて来たんだ」
「そうかあ。せっかくプレゼントをとどけても、ひっこしたあとじゃ、しようがないもんな」
「どこのだれなんだ、こんなせわしい時にひっこすのは」
「天平山(てんびょうざん)にすむうさぎのピックなんだ。シロッパナくん、この手紙をみんなに読んでやってくれないか」
「うん、いいよ。エーと、『サンタのおじいさんへ』か。では 読むよ」
『サンタのおじいさん、お元気ですか。ぼくのうちは、あしたひっこします。
ぼくは、今とってもかなしくてしょうがないのです。一しゅうかん前、ぼくと一ばんなかよしだったピョンちゃんが、キツネのキローにくいころされたのです。その日、ぼくたちはいつものようにかけっこやかくれんぼをして、おなかがすいたのでバイバイしました。そのすぐあと、ピョンはおそわれたのです。
これまでは、きつねやいたちにおいかけられた時、かくれる所はどこにでもあったのです。ところが、ことしの夏、この天平山のてっぺんに、人間たちの『
人間たちは、ぞう木のしげみをバサバサ切りひらき、ボコッとかさなった落葉をけちらして、山をぐるりとまわしたはちまきのような道をつくり、シゼンカンサツをしながら、ぞろぞろ歩いてまわります。
それで、ほくたちはことしはすっかりちょうしがくるってしまいました。ぼくたちうさぎなかまだけではありません。
ウグイスは、カゼがこじれて春までにうたえるようになるかどうか、わかりません。やまばとは、木の実が少なくなったので、『テテッポー』とちょうしよくなけなくなりました。たぬきは、人の足音がこわくて、あなの外へ出ることができず、やせておなかがへっこんでしまいました。
ほくたちは、もうこんな山はいやなので、もう少しおくの山へひっこすことにしました。だから、ことしのクリスマスには、まだうちがきまっていないかも知れないので、プレゼントはいりません。
もうピョンと遊ぶこともできないのだし、あの時、ピョンはどんなにこわかっただろうと思うと、ぼくだけいいものをもらうわけにはいかないのです。
そのかわりに、あとにのこっているものたちにたっぷりプレゼントをあげてください。
うぐいすには、まい日あまい水でうがいができるようにさとうを一キロ。
やまばとには、五色豆といり豆を三ふくろとムギを二キロ五百グラム。
たぬきには、切り干し大根五キロとあぶらあげを十枚。
それから、きつねのキローに、よわいものいじめをしないですむように、ドッグフードを一年分おくってやってください。おねがいします。
ひっこしの時、わるものにねらわれないよう気をつけて行きますから、あんしんしてください。
サンタのおじいさんも、カゼをひかないように気をつけてください。
では さようなら
十二月十四日
「だれかちり紙をくれないか。さむいからハナが出るよ」
「あら、シロッパナさん、あなたのハナも光りはじめたわよ」
「ちがうよピンキーちゃん、シロッパナくんは、なみだが出てきたのをごまかしてるんだよ」
「そういうホソクビくんだって、ハナがぬれて光っているよ。ぼくのハナは大きいからちり紙がいっぱいいるんだ。グシュン……」
おや、おや、みんなちり紙でチーンチーンと鼻をかみはじめました。
あら、外からも聞こえます。
なんだ、そりのすずです。サンタのおじいさんが帰って来たのね。
「いま帰ったよ。あれ、みんなカゼをひいたのかね」
「いいえ、おじいさん、うさぎのピックの手紙を読んだら、みんななみだが出て来て……」
「そうか、そうか。天平山へ行ってみたよ。ピックの言うとおりだ。さっそくプレゼントのよういをしよう。
しかしあの山の上を通る時はヒヤヒヤしたね。自然の家の屋上から五台の
近ごろは、やりにくいねー。空は時々へんなガスで一ぱいになるし、エントツにはいやなにおいがついているしな。
でも、
そうだ。クリスマスには少し早いけど、あのやさしいうさぎのピックに、ひっこしが早くできるように、ローラースケートをおくってやろう。わしはほかの用があるから、シロッパナと赤ハナ、こんやのうちにとどけてやってくれ。人間に見つからないよう、気をつけてな」
うさぎのピックは、クリスマスのころには、きっと新しい家につくことができるでしょう。ゴロゴロとローラースケートで走ったり、ピックピックとはねたりして……。
ローラースケートをはいたうさぎを見つけたら、よろしく言っといてね。
(初出:昭和四十七年二月一日発行 第九集)