なかよし

 のんちとまっちんは、三年生になったら、組がかわったんだ。だから教室は、別々。
 でも、いつも一しょに遊んでるよ。学校では、遊び時間にろう下で、家に帰れば、もちろん原っぱで。家が近いから、暗くなるまで一しょにあそべるんだよ。
 大の大のなかよしさ。だからのんちは、まっちんに「のろまのよわ虫君」なんて言われても気にしたことないよ。だって本当なんだよ。まっちんは、かけっこも、せみとりも、ボールなげもうまいし、けんかも強いし、のんちは、まっちんにはかなわない。だから、のろまといわれても、よわ虫といわれても、おこったことは一度もないんだ。
 これまではね。
 ところが、きょうは、ちがっていたね。


 のんちの家へ、同じ組の森君と花岡君が遊びに来たんだ。それで、のんちは、原っぱへ案内して、三人でキャッチボールをはじめた。そこへ、まっちんが来たんだよ。
 そして、言ったね。
「ここは、ボクンチの原っぱだからドケドケ!」
 とね。
 のんちたちは、やりかえした。
「ヘエー、きみんちのってだれがきめた?あき地はみんなで遊べって市長さんが言ってました!」
「市長さんがナンダ、ボクンチのだい、おとうさんだって、おにいちゃんだって、いつも使っているんだから」
(そう言えば、まっちんのおとうさんも、おにいちゃんも、いつもここでキャッチボールをしてるな。まっちんのいう通りかも知れない……)
 のんちはそうかも知れないと思ったから、
「いいですよーダ、ボクンチだって芝生があるからそこでやりますよーダ」
 そういって三人はのんちの家に引きあげた。
 なのに、まっちんは、まだのんちの庭までついて来て、言ったんだ。
「やーい、よわ虫。もう原っぱで遊んだら ダメだぞー」って。
 のんちは、きょうはだまっていられない。後に、森君、花岡君がひかえてる。胸をはっていいかえした。
「なんだ。ついて来るなよ―。ここはボクンチだからな、はいるなよ、そこにさわるなよー」
「はいるもんか。そこのあみかえせよ。オレのだからな」
「自分でわすれたんじゃないか。さっさと持ってケ、ホラ」
 のんちは、きのうまっちんが忘れていったこん虫あみを、ほうりなげた。

 まっちんは、かきねの外で、そのあみの長い竹のえをふりまわしながら、はやしたてた。
「ホラ、早くキャッチボールしろよ。なげてみろよ。ソーラ、とれないだろう。ヤーイ、ヤーイ、へたくそ、のろま!」
 おかげで、のんちたちのキャッチボールは、ちっともうまくできない。おもしろくない。森君と花岡君は、「また来るよ」といって帰ってしまった。
 のんちは、本当におこった。顔が、ブワーとふくらんだ。
「そんなもん、ふりまわしてあぶないじゃないか。もう、ゼッコウだからな!」
 というと、胸がドッキンドッキンして、目のおくがジーンとして来た。いけない、涙が出たら大へんだ。
「もう、遊ばないから!うちにゼッタイにくるな!」
と、一生けんめいにどなって、バタンと、玄関から家にとびこんだ。

 その夜、のんちは、頭の中がスースーして、いつまでもねむれない。ボールとグローブ、そしてまっちんの顔が、目の前をチラチラする。むりに目をつむると、となりの部屋から、テレビのナイター放送が聞こえて来た。
「七回の表、巨人軍の攻撃、バッター王選手、かまえました。ピッチャー江夏、田淵のサインに大きくうなずき、なげました。ア、打ちました。打ちました。大きなあたりです。ホームランになるか。ライトスタンド上段に入りそう。入るか。入りました。ホームラン、ホームラン、…………」

 玄関のチャイムが、「ピポーン、ピポピポピポ」と、なりだした。
 あ、あのならし方は、まっちんだ。
 のんちは、玄関にすっとんだ。やっぱりー。
 まっちんは、バットとグローブをもち、かっこいいユニフォームをきて、にこにこ立っていた。
 そして、「やる?」
 のんちは、もちろん「O・K」

 原っぱのマウンドに立ったまっちんは、しんちょうにのんちのサインをうかがい、大きくうなずいて、第一球をなげた。直球ストライク。二球目、外角ギリギリのカーブで、これもストライク。バッターは、巨人軍柴田選手、三球目、打ちました。が、ピッチャーゴロで、まっちん一るいの森君に送球、アウト。
 次のバッター長島、三遊間を抜いてヒット、一るいに出た。
 バッターボックスに王選手をむかえて、まっちん、のんちのバッテリー、きんちょうしている。まっちんなげた。王選手打った。打った。大きなあたり。でもセンター花岡君、よくがんばって、ボールに追いつき、左手のグローブにスポン。とび出した長島もさされてアウト。
 さあ、今度はのんちたちの攻撃。
 一番バッター森君、巨人の投手掘内の第一球を打った。大きなあたり、けやきの枝をとびこえて、ホームラン。
 二番打者花岡君、やはり打った、打った。
 ホームラン。
 三番は、のんち、さあ、こい。
 のんちのうでに、ムクムク筋肉がもりあがり、腰がどんときまっている。そら、来た。いいたま。打った。カーンと外野にヒット。走った。走った。早いこと、早いこと。二本の足が見えない。まるで、ベースの上をジェット機が、とんだみたい。あっという間に、ホームイン。ランニングホーマーだ。
 四番のまっちんも、もちろん ホームラン。
 次の打者も、次の打者も、打つ、打つ。みんな、ホームラン。こりゃ、すごい。一体、何点入ったんだ?
 まだ、まだ、走れ、走れ、走れ、…………

「あら、あら、のんちは、おふとんみんなけとばして、どっち向いてねてたの?もう七時よ、起きなさい」
 のんちは、ユメを見てたんだ。ゆかいだったなー。
 それ、学校の仕度だ。急げ、急げ。

 ピポーン、ピポピポピポ。
「のんち、まだかー」
 まっちんのおむかえだよ。
「なあ!ゆうべの野球、おもしろかったナー、まっちん!」
「な、よくうったな、のんちもやるジャン」
「また、やろう!」
「うん!な」

 あれ?ゆうべはユメだったんだよ。すると二人は、同じユメを見たのかい?
 ランドセルが二つくっついて、学校へ行ったよ。

 おしまい 



昭和四十九年十月一日発行 土の花 作品第十九集 掲載