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白樺のくろき瘤より霧生まるる

きつつきに声かけられて霧深し

髪にすぐ手をやる女霧の宿

啄木鳥やはたらきすぎの日本人

かっこうの笑ふてゐたりすずかりに

閑古鳥旅にしあれば耳さとし

霧ふすまのぞいてゐたる朴の花

いにしへの霧に開いて苔の花

にんにくを軒に吊して避暑の街

日時計盤十二支の消ゆ梅雨の雲

日時計に山の霧雨溜まりけり

ショウウィンドウ白き衣装の霧がくれ

舎利守りの石像の背に滝の音

梅雨の谷濃きうすきあり詩文字塔

白樺のくろき瘤より霧生まるる

大るりを聴くや樅の木息を止め

梅雨雲や半身の白し白樺

梅雨の宿文字盤重きパズルかな

キャッスルの棟梅雨空にゆれてゐし

夏霧をかかへし樅の闇深し

夏霧の風に紅葉のさめにけり

黒ずくめきめたるひとや朴散華

礼拝堂昼を灯して栗の花

教会に明治の旗あり朴の花

紅花をかんばせやさし石像に

桜沢水増してをりしょうま散る

緑陰の芭蕉の句碑明りける

花栗や戻り確かむ岐れ道

教会の古い花栗の盛りかな

朴の花求める視線四散せり