同病の語らい続き桜満つ

無人駅青くて光る風抜ける 六月九日三日月駅十四時四十一分発

梅雨はまだ全山あらわに富士の山

はしり梅雨富士は薄絹かずきをり

単線の軋みに光る風をのせ

いぼ川に光り散らして花菖蒲

イヤリング輝く主婦の忘年会

茶の花や含み笑いのデスマスク

隣家より紅葉の明りをもらひけり

蟷螂の翠のままに枯れにけり

自転車の登りきったり花八つ手

沼畔のいてふの落葉は生かわき

落葉の音無人のボート動き出す

冬のもずアルツハイマーなど知らず 河二月号

生き死にの思案や秋の毛虫落つ

秋の朝黒子消えたる誕生日

猪肉に酔はされたりと故郷(くに)の声

三階に棟上がりけり新酒汲む

ちちろ虫始発電車に驚かず

つげ櫛の髪つまみとる秋灯火

十年日記の頁の軽き十三夜

亡父亡母(ちちはは)の軽きを背負ひ赤とんぼ

亡父(ちち)の痣手の甲にのせ大根蒔く

満月の鬼逆立つ外国に

外国(くに)よりは便り久しき赤とんぼ

満月の鼓動大樹に届きけり

雨傘の赤い花柄敬老日

声立て秋の蛙や腹ふくる 河十二月号

父と子の異な癖もあり秋茜

秋暑し短く切れしとかげの尾