はる

週一度便りの来たる春の宿

古なべに長き米炒る春の宵

映画館出て春の陽に動揺す シンドラーのリスト

肩小さき石仏ぬらす春清水

春の雨千畳閣の屋根に降る

大鳥居太らす春の雨赤し

軍手脱ぎ釘抜く女春の風

おおき花三分の揺れや春の宵

帰国の娘お揃ひで購ふ春帽子

藤村のふと出て春雨冷たし

にごり酒かかえて春の旅は果つ

春の旅終りに購ひしにごり酒

春の夜に指先で読む句碑の文字

春帽子まづ脱いで置く自由席

発車まで二輌電車に春淀む

発車まで春陽ためおく別所線

春風や降客の地図裏返り

捨て缶の電車の床に春唄ふ

じゃんけんぽん負けてもやっぱり春立ちぬ

古だんす鎮まり春の地震止む

ひとり部屋地震の余波と春の雨

意に反し花びら寄する春嵐

記憶装置こぼれそうなり春うらら

信州に桑の苗植ゑ春を待つ

忙殺の白き日記に春ぞ来る

逢い引きの日延べの電話春の雪

目薬の冷たき夜や春おぼろ

老境に入るや春風めにしむる

春の陽のどっと差し入る雨後の窓

自堕落は母ゆずりかや春の風