ひとり餉のらあめんに葱山と盛る

甲州の稲田となりは葡萄園

白菖蒲雲海のごと濡れてをり

葉隠れの蕾のすずらん序列あり

湯玉とる蕗のゆで汁うすみどり

信州に桑の苗植ゑ春を待つ

うすずみをふくみ桜の散りにけり

くれなゑを溜めて桜の出番かな

百連の盛り過ぎたる高笑ひ

投票を終えぶらんこの背なを押す

満ち潮のごと草萌ゆる雨の後

逢い引きの日延べの電話春の雪

野分雲デビルの足を踏みはづす

豪農の嫁ひびの手ではがき書く

寺山に十字の墓石初茜

つんつんと信濃に桑の苗植うる

聖夜かな父の手垢のヨハネ伝

長距離の電話に除夜の鐘も乗る

小菊折るその間は止まる万歩計

柿喰へどなほ不機嫌のつのり来る

東方に笑ひて喰ふべ青みかん

秋の宿ひとつの椅子は空きにけり ホームステイの子、去る

足元に咲くコスモスや音のなし

クーラーを止め羊を数へたり

田水沸く料理全集めくるのみ

青梅の針さす夜のひとりかな

まないたに走るしゃくとりキャベツ色

夏はじめ足裏ぬくき竹を踏む

芽銀杏の雨降りて後ものを言ふ

花送りひそかに蕊の盛りかな